アメリカ通な上司がいる会社

日本の会社ではたまにアメリカ通を自認する上司がいたりする。何回かアメリカに出張したとかで、アメリカの作法をしっとるから文化人なんだぜみたいな意識を持っている。回りの人も、「あの人はよく知ってるからね」なんとか言いながら感心しながら話を聞いているふりをしたりするのだ。アメリカに何かコンプレックスやあこがれを持っていることが多いけれども、そうなのかと聞いてみると、アメリカなんて結局たいしたことないし、日本が一番だというようなことを言う。やっぱり何やら特別な感情を持っているのだ。

さて、そういう人たちと出張なんかしたらもう大変だ。君はチップの払い方がなってないとか、アメリカではこうなのだとか、アメリカでは○○と発音するのだとか、自分の描くアメリカ像に浸って細かいことについて自分自身も回りも支配しようとするのだからうっとうしいこと限りない。よく聞いてみると、そういうアメリカ通情報は日本の本や雑誌、仲間のアメリカ通日本人知人から聞いたことばかりなようだ。アメリカ人は誰もがチップを素早く計算できて、必ずチップが15%以上になるように払うといってはばからなかった時には自分はあぜんとしてしまったが、上司なので逆らうこともできずに聞き流すことにしたのを覚えている。おまけに、日本人がチップを15%以下に払ったり、カードで割り勘にして清算の手間を多くするのは恥ずかしいなんていうことさえも言ったりする。困るのは、そういうことを言う人が日本の会社には結構いるというところだ。

アメリカのレストランで仕事の関係者らと食事した時に自分が清算することになった時、チップが小計の15%ぐらいになるようにして総合計が切りのよい数字になるように丸めて書いたところ、レシートをチェックされて、これでは14.5%ぐらいではないか。一体お前はどのように計算したのだ。なってないというような注意をされた。一体アメリカ人の誰がそんなに細かく計算するだろうか。大体税金を二倍してみたり、自分で適当に○ドルぐらいかなという設定をするぐらいだ。そうやって概算する時だって、とっさに計算する訳でなくて、好きなだけ時間をとればよいのだ。当然お金をあまり持ってなかったらチップをケチるだろうし、いいサービスだと思ったら少し増やしたりするだろう。アメリカ人だってカードで割り勘にするし、そんなのは他の人がどうこう言うことではない。カードの割り勘ができないウェイターなんて失格だ。

日本の会社ではそういう訳の分からないストレスが多かったなぁと最近しみじみと思い起こすことがある。アメリカに長くいればいるほど、そういう細かいアメリカうんちくがいかに現実から乖離しているものかということを強く感じるようになってくるが、日本では一体誰がそういう適当なことを最初に言い始めたのだろうかと不思議に思ったりもしている。

ところで、昔から日本でよく聞く話に、日本人はエレベーターの閉ボタンを押すけどアメリカ人は押さない(だから恥ずかしいというのがいつもつきまとっている)というのがある。確かに日本人は閉ボタンをよく押すけれども、それは自分が急いでいるのと同時に、エレベーター内の他の人の待ち時間をも少なくしようという、効率と公共利益を追求する精神によるものだ。アメリカ人が閉ボタンを押さないで待っているのは寛大な印なのだという理解は正確ではない。実は、アメリカのエレベーターでよくあるのが、行き先の階のボタンを押すと、扉が閉まり始めるという設定だ。なので、閉ボタンを押す必要がなかったりする。だから、エレベーターに乗ってすぐに行き先のボタンを押してしまうと、まだ人が乗ってきている途中なのに扉が閉まり始めてしまい慌てて開ボタンを押さなければならなかったりする。そして、アメリカ人が閉ボタンを押さないという認識もあまり正しくない。あまり長く扉が開いている時は間が悪くなって閉ボタンを押す人がいるし、閉ボタンの代わりに自分の行き先階のボタンをもう一回押す人は結構多い。閉ボタンよりも押しやすいところにあって見つけやすいからだ。

こういう話はきっと、国と国との境がもっと厚くて一人の発言がもっと意味を持っていた時代に誰かから口づてで広まったに違いない。

意外とこういう本が出所だったりして。。。

日本人が誤解しやすい英語生活マナーブック―Keeping It Smooth (対訳ニッポン双書)
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